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ヨーロッパでも日本でも放射能泉を利用して、健康増進や病気の治療に利用してきました。長い歴史を持っています。しかし、去年の福島原発事故で予期せぬ放射能汚染が東北や関東の地域に広がり、日本人は再び放射能の知識を正確に学ぶ必要に迫られています。これまでは非日常的だった放射能に関して、正しい認識を持つことが日本人に要求されているように思います。放射能から出る放射線は微量だと「放射線ホルミシス」と呼ばれるように、私達のからだの代謝系や防御系を活性化し健康増進に役立ちます。しかし、大量だと放射線障害が出現してしまいます。原爆による急性死やガン治療による骨髄機能低下作用や免疫抑制作用などです。放射能泉を利用する人も放射能汚染を心配する人も、放射能や放射線に対する知識を得て暮らす時代に突入しました。いっしょに学びましょう。
物理学的刺激がヒトに作用した時、ホルモン様のプラス作用をもたらすことがあります。ホルモン様効果ということでこの現象をホルミシスと名付けたのです。ホルミシスは東洋医学的治療によく利用されています。漢方薬は食べるには無用でむしろ危険なものですが、少量を口にすることによって毒物を排泄する副交換神経反射が引き起こされます。これによって、消化管の動きを良くし便秘を解消するなどの治療効果を出しています。利尿効果も出ます。鍼灸も同様です。鍼は小さな傷をつけますが、この傷を修復する生体反応や、物理的刺激を跳ねのけるための血流増進効果を発揮します。灸は熱傷を起こすので、熱の物理的刺激を跳ねのける代謝亢進作用が起こります。微量の放射線がホルミシス効果を表すのも同様の作用です。とくに、からだの亢酸化作用が上昇します。
また、DNA損傷からの回復力の上昇をもたらすわけです。このように人類は多くの物理化学的刺激を利用して健康増進や病気の治療に役立ててきたのです。ラジウム温泉を利用するのも、温泉の温熱効果に加えて低放射線ホルミシス効果を期待したものです。日本や世界各地でラジウム鉱泉が利用されていますが、だいたい自然放射線の100倍くらいの値になっています。私たちの自然放射線の被曝量は2.4mSv/年ですから200mSv/年前後です。
私達の細胞内にエネルギー生成のための小器官、ミトコンドリアが存在します。ミトコンドリアはクエン酸回路を回して食べ物(主にピルビン酸など)から水素分子を取り出します(図1)。この水素をプロトンと電子に解離させ電子伝達系に運ぶわけです。ミトコンドリア内膜の外にプロトン、内膜の内側に電子をためて電気エネルギーをつくります。そして、これを脱分極させてATPをつくっています。この流れの中でミトコンドリアは紫外線や放射線などの電磁波を利用しています。電磁波の力で、水素分子をプロトンと電子に解離させているのです。電磁波の中で、波長が短くエネルギーが高いのが宇宙線やラジウムやカリウム40から出るガンマ線です。次に、医療用に使用するX線です。
さらに、波長が長く多少エネルギーが低くなったのが紫外線です。このため、自然界に存在するガンマ線や紫外線は生命維持にとって必要不可欠の物理的刺激になっています。私達生命体が太陽光無しで生きられないように、自然界に存在する放射線無しには生命は存続できません。自然界からくる1年間の放射線の量(2.4mSv/年)は、宇宙線:地表:食物=1:1:1くらいです。宇宙飛行士の古川さんが戻ってきました。その時の新聞記事に、宇宙では1日で半年分の自然放射線を浴びているというのがありました。過去の38億年前の生命誕生後の長い間、地球には酸素やオゾン層がありませんでしたので、宇宙線も今の200~1000倍の量で地上に降り注いでいました。また、ウラン(半減期が45億年、ラジウムはウランの崩壊で生じている)やカリウム40(半減期13億年、ふつうのカリウムの中に0.012%含まれる)から出て、生命体に当る自然放射能線もこれまで38億年間でそれぞれ約1/2、1/8くらいに減衰しています。今の地球では、むしろ生命体は放射能や放射線不足になっているという状況です。
最小の放射線でもからだにはマイナスという考え方がlinear nonthereshold theory(LNT説)です。しかし最近の多くの研究で、放射線には生命体に必要量がありそれ以上になった時に放射線障害が出るという考えが方が出て、これはdoseresponse theory とかhormesis theory と呼ばれています(図2)。トーマス・D・ラッキー博士の提唱している考え方です。これを見ると100mGy/年(100mSv/年に相当)がホルミシス効果を生む最適値になっています。日本人は福島原発事故のために、放射線の害や利益について知らざるを得ない状況に置かれてしまいました。この論説で書いたような内容を知らないで生きるとつらいことばかりが多くなってしまいます。厳しすぎる被爆量を設定し過ぎると人がその土地に容易に住めなくなりますし、十分厳しい値なのに、それでもさらに不安を抱えることになったら別の意味の健康被害が出てしまうでしょう。この論説で正しい判断ができるようになるといいと思っています。
出典:社団法人日本温泉協会発行の「温泉ONSEN」2012年2月号より