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光延文裕(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科老年医学分野 教授/
岡山大学病院三朝医療センター長)
気管支喘息患者9例(女性4例、男性5例、平均年齢59歳、23-79歳11))を対象としました。三朝医療センター・熱気浴室において、室温40℃~43℃、湿度75~90%、ラドン濃度2,080Bq/m3(background radon levelの約40倍)の条件下で、1日1回30分間、週1回の治療を5回(day1,7,14,21,28)施行しました。肺機能は、治療前と治療後で測定しました。末鞘血検体は、治療開始前、day1,14,28の治療終了後2時間で採取しました。
①1秒量(%FEV1)は、治療前70.2±3.3%から治療終了後77.7±4.9%と有意の上昇を認めました。
②血中SOD活性は1回目の治療後一過性に上昇しましたが、それ以降は有意の変化を認めませんでした。一方、血中catalase活性は、治療終了後有意に亢進しました。
③血中過酸化資質は、治療終了後有意に減少しました。
健常男性15名(20-40歳)を対象とした。5名ずつ3群に分け、それぞれラドン群、温熱群、対照群としました。
ラドン群:室温36℃、湿度約90%、ラドン濃度2,080Bq/m3の三朝医療センター・熱気浴室
温熱群:室温48℃、湿度約90%、ラドン濃度54Bq/m3(back ground radon level)のサウナ室
対照群:室温36℃、湿度約90%、ラドン濃度54Bq/m3のサウナ室
対象者は、day1.3.5.8.10において、上記の各条件で1日1回40分間滞在し、鼻呼吸を施行しました。末梢血検体は、治療開始前、day5.10の治療後2時間で採取しました。
①血中過酸化脂質は、ラドン群および温熱群で、dayおよびday10において有意に低下しました。
②血中SODおよびcatalase活性は、ラドン群および温熱群でday10において有意に増加しました。
③ConA幼弱化反応は、ラドン群ではday5およびday10において有意に亢進しましたが、温熱群ではDay10おいてのみ有意に亢進しました。
④CD8陽性細胞は、ラドン群ではday5およびday10において有意に低下しましたが、温熱群では有意差は認めませんでした。
⑤CD4陽性細胞は、ラドン群ではday5およびday10において有意に増加しましたが、温熱効果ではday5においてのみ有意に増加しました。以上、温熱およびラドン吸入は、抗酸化機能を活性化し、喘息患者の換気機能改善に有効であることが示唆されました。温熱またはラドン吸入のみでも抗酸化機能の活性化および免疫機能への作用を有することが示唆されました。
ラドン泉の効果は、通常の温泉の持つ温熱効果と含有成分のほかにラドン吸入による効果が加わったものと考えられます。入浴の仕方は通常の温泉と同様ですが、ラドン泉の場合、身体への刺激が比較的強いため、湯あたりがおきやすいので注意が必要です。したがって、高温、長時間浴は避け、回数は最初少なく、体がなれてきたら1日2~3回までに増やしていくのが望ましいと考えられます。
温泉療法は、その気道清浄化作用により薬物療法、特に吸入療法がより効果的になるとともに、副腎皮質機能の改善・呼吸筋の強化・運動耐容能の改善などの作用によって薬物を減量、全身状態を改善すると考えられます。したがって、温泉療法と薬物療法は、お互いにその効果を補完することによって、最良の治療効果が期待されることになります。
さらに、治療療法の医学領域への応用は、健康増進、福祉(介護)、疾患の予防、そして疾患の治療と、その範囲は多岐にわたることも考慮しながらさらなる充実を計っていかなければなりません。温泉療法の適応疾患はかなり広範囲にわたりますが、温泉療法の適応疾患には、絶対的適応症と比較的適応の2つがあります。温泉医学の絶対的適応とまる疾患(温泉を利用しなければ治療が困難な疾患)は、主として慢性閉塞性呼吸器疾患、中でもSDIA、びまん性汎細気管支炎などの疾患です。これらの疾患では、薬物療法、食事療法、あるいは運動療法のみの治療は奏効し難く、温泉療法なしでの治療は極めて困難です。温泉療法の比較的適応(一応薬物療法や、食事、運動療法の効果がある程度期待できるものの、温泉療法を併用した方がより治療効果があがるような疾患)は、たとえば、変形性関節症(腰椎、膝関節、股関節、肩関節、頚椎など)、関節リウマチ、脳梗塞後遺症、糖尿病などがあります。これらの疾患に対して、様々な温泉療法(温泉プールでの水中運動、鉱泥湿布療法、吸入療法、飲泉療法、温泉浴、泥浴、熱気浴など)が行われます。
当センターでは、温泉療法を主として入院治療として行っていますが、温泉旅館に長期滞在の上、施設の整った病院へ通院しながら温泉療法を受ける方法もあります。しかし、日本には、ヨーロッパ諸国の温泉地のように、温泉療法医による温泉療法の処方箋に基づいて各施設で温泉療法が受けられるような、しっかりとしたシステムが確立されていません。専門医の処方箋により、適切な温泉療法が受けられるようなシステムの構築が望まれるところです。さらに、健康増進、疾病予防、福祉(介護)にも温泉資源が活用できるような社会制度を確立することは、これからの高齢化社会にとって重要な課題であると考えられます。
光廷文裕(みつのぶふみひろ)
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 老年医学分野 教授
岡山大学病院三朝医療センター長
昭和59年3月 岡山大学医学部医学科卒業
昭和63年3月 岡山大学大学院医学部研究科 修了
昭和63年9月 米国南カリフォルニア大学医学部研究員
平成2年10月 岡山大学医学部附属病院三朝分院 助手
平成6年7月 同 講師
平成13年3月 同 助教授
平成14年4月 岡山大学大学院医歯学総合研究科 老年医学分野 助教授
平成20年6月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 老年医学分野 教授(現在に至る)
岡山大学病院三朝医療センター長(現在に至る)
呼吸器内科学、老年医学、アレルギー学、温泉医学
日本内科学会、認定医、総合内科専門医、指導医、中国支部評議員
日本呼吸器学会 専門医、指導医、代議員
日本老年医学会 専門医、指導医、代議員
日本アレルギー学会 専門医、指導医、代議員
日本温泉気候物理医学会 温泉療法専門医、理事
日本医師会認定産業医
平成22年7月第29回環境大臣温泉関係功労者表彰
出典:放射能泉の安全に関するガイドブックより